人間にしかできないこと
1月4日に年頭のあいさつをしてから、早々の新年第2号の「教育長のページ」になります。
年末の12月27日に「産経新聞」から配信された内容について、私も考えを同じくするところがあり、是非、お知らせしたいという思いから第2号の掲載となった次第です。
昨年のサッカーワールドカップの日本代表の試合に端を発した配信の概要を紹介します。
「奇跡の1・88ミリ」から考える それでも、人間にしかできないこと 最も印象深く刻まれた場面は1次リーグのスペイン戦での三笘薫選手のセンタリングと田中碧選手の逆転ゴールでしょう。「奇跡の1・88ミリ」と呼ばれた最後まで諦めない姿勢と技術を日本人に見せてくれました。この「奇跡の1・88ミリ」を証明したのが、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)と呼ばれる、ハイテク機器です。ボールに埋め込まれた電子チップを根拠にあの奇跡の逆転ゴールが証明されたのです。 教育の分野もそれに漏れずIT(インフォメーション・テクノロジー)情報技術や、それに加えて現在では機械でのやりとりを加えたICT(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)情報通信技術の進展で、学校の教室の模様も今の大人たちには想像もできないくらい変化していっています。 加えてここ数年のオンライン授業が定着化し、学校と子供の家庭をコンピューターでつないだ授業風景も珍しくなくなってきました。 ここ数年、「AI失業前夜」「10年後、君に仕事はあるのか?」「あと20年でなくなる50の仕事」といった書名が冠せられた書籍が次々と出版されました。 内容は簡単に要約すると、AIの発達によって多くの仕事がコンピューターに取って代わられる、というものです。筆者のような仕事(教育や心理臨床などのカウンセリング)を生業にしていると、やはり「人間にしかできないもの」がある、ということを感ぜざるを得ないのです。教育や心理臨床を提供する主体はあくまでも人間だということに変わりはありません。教育は単に知識を伝えるものだけではなく、その学問の「学び方」を伝えるのも重要な要素です。 同時に学校という場は学問を教えるだけではなく、社会生活を学ぶ場所でもあります。学ぶための動機付けは、やはり人間の教師でないと難しいのです。 いい先生に出会ったことが、その後の人生に大きな影響を与えることは珍しいことではありません。対面とオンライン授業、両方とも可能なとき、オンラインを選択する教師や子供が出てきていることも事実です。しかし、やはり生身の息づかいやその場の雰囲気、言葉ではなく感じることなどを大事にすることが、人間にとって生きる上で最も重要だと考えます。数字で表せることしか評価しない時代になってきていることに疑問を感じているのです。 「対人援助職」という言葉があります。今後、どれだけ時代が進み、AI、ICTが進んでも教育、心理臨床、保育、看護など「人間にしかできないこと」、つまり、直接の生身の人間関係でしかできないことが注目され、ますます発展していくことを強く期待しています。 【今村裕(いまむら・ゆたか)】 昭和31年、福岡市生まれ。福岡県立城南高校、福岡大学、兵庫教育大学大学院修士課程、福岡大学大学院博士後期課程。公立小学校教諭、福岡市教育センター、同市子ども総合相談センター、広島国際大学大学院心理科学研究科、大分大学大学院教育学研究科(教職大学院)を経て、現在開善塾福岡教育相談研究所代表。純真短期大学特任教授。公立学校スクールカウンセラー。臨床心理士、公認心理師。 |
今後、教育の分野において、我々の想像を超えた学習形態(情報通信機器の活用)となることもあるかもしれませんが、自ら学ぼうとする力や規範意識・良好な人間関係を築いていく力、自己肯定感などを育んでいくことができるのは、家庭(保護者)であり、学校(教職員)です。
ICT機器等ではありません。
子どもたちにとって家族以外で「人間にしかできないこと」の身近な存在(職業)は学校の先生方です。
近年、教職を目指す者が減少し、その原因の一つとして学校での勤務時間を超えた業務実態ということも言われています。
こうした状況の改善を図っていくとは当然必要ですが、一方で子どもたちの成長にかかわる「人間にしかできないこと」の教職の魅力があまり発信されていないように感じています。
子どもたちへの愛情と教育に対する使命感・責任感を持った人が一人でも多く教職に就くことができるよう、子どもたちを支え育んでいく「教職の魅力・やりがい」を伝えることの大切さを実感しています。
池田町教育委員会
教育長 加賀 学